Copyright (c) J-CAST, Inc. 2004-2020. 教師になった奴の9割5分は数学科に向いてなかったという経験則がある, フツーの数学科なら1年前期でε-δはやるぞ! それに学部でやる数学はある程度は独学できると思うから、教科書買って読んでみるといいよ All rights reserved. 数学の未解決問題「ABC予想」が解かれた。論文の発表者は京都大の望月新一教授(1969年生まれ)。7年半前、2012年8月のことだ。しかし、いまだにその論文を掲載する数学誌は出ていない(文末に追記有り)。謎の証明だと言える状況だ。どうなってしまったのか。そう思っている人もきっといるだろう。, 証明には望月教授の創った新しい数学手法が用いられている。「宇宙際タイヒミュラー理論」(Inter-Universal-Teichmuller theory=IUT理論)。本書『宇宙と宇宙をつなぐ数学』(株式会社KADOKAWA)は、IUT理論とそれを使ったABC予想解決の一般向け紹介書だ。, 著者は、加藤文元さん(東京工大教授)。加藤さんは望月教授と学んだ大学が異なるが同学年だ。IUT理論完成までの最終6年間にかかわり、両者で月1、2回程度、セミナーを開いた経験を持つ。同理論の一般向け紹介者としては格好の人物だと言っていい。, 学会誌掲載が実現しないのは、IUT理論がとても難解だからだ。論文掲載の事前審査が進まないのだそうだ。加えて加藤さんが本書を書いたのは、誤解が数学界に広がっていることへの懸念もあった。, 望月教授は「トップクラスの学者でも理解するのに長時間を要する」と見ていて、学界の理解を広げるのにさして熱心ではないとされる。下手をすると確認されないまま忘れ去られる恐れもある状況だと言えるかもしれない。2004年のド・ブランジュによる「リーマン予想解決」のようにほとんど放置されている先例もある。, 数学の未解決問題では「ヒルベルトの23の問題」と「ミレニアム懸賞問題」がよく知られている。「連続体仮説」や「ポアンカレ予想」(いずれも解決済み)はその一つだ。解決される度に大きなニュースになった。一方、ABC予想は広く報道されたものの一般にはなじみが薄い。テーマ化したのが1985年と新しいためだ。, 自然数aとbが互いに素であるとき、aとbの和をcとする(a+b=c)。これを「ABCトリプル」と呼ぶ。このABCトリプルの積(a・b・c=D)を取ったときのDの根基(こんき=ラディカル)をdとすると、dとcとの大小比較で現れる事態についての予想が、ABC予想だ。, 根基は聞き慣れない用語だが、Dの場合、互いに異なる素因数を、2乗、3乗などダブりをすべてなくした上で乗じた積dのことだ。「rad D」と書く。例えば、Dが36の時はrad 36=2^2×3^3→2×3=6("^"はべきを表す)となる。逆に根基が6となる元の数は、6や12、18......など無限個ある。, ここでcとdの大小関係は、c < dとなるのが普通だ。しかしc ≻ d になることも例外的にある。この例外は無限個あるが、「d を累乗して少し大きくすることで有限個にできるだろう」とABC予想は考える。つまり、c ≻ d^(1+ε)(ε=イプシロンは正の小さな実数)だ。, 数学の門外漢には、このような予想がどれほど重要なのか、と映るかもしれない。実はこれが解決すると、さまざまな数学の難問が解けてしまう、と言う。A・ワイルズが別の方法で解決した「フェルマーの最終定理」(「Aのn乗+Bのn乗=Cのn乗」を満たす3以上の自然数nはない)をはじめ、「モーデル予想」「トゥエ=ジーゲル=ロスの定理」「エルデシュ=ウッズ予想」など数多い。大変な威力を持つ予想なのだ。, 本書で加藤さんは、望月教授の来歴や加藤さんとのかかわり、同予想を取り巻く状況を紹介。その後でIUT理論を概観し、これを適用したABC予想解決への道筋を示す。, 加藤さんが最初に指摘するのは、予想(a+b≻ d)の左辺が和の計算であるのに対して右辺( d)がかけ算であることだ。数学は足し算とかけ算が強固に絡まり合っている。積を取ると必ず足し算が付いてくる複素数などは、典型なのかもしれない。だが自然数では2つを切り離して、足し算を固定、かけ算だけ伸び縮みさせてみよう、と言う。この切り離すというのがIUT理論のアイデアだ。, 素数の積をめぐっては、こんなことが言えるかもしれない。つまり、自然数の定義だ。1に1を足していって作られたものだとする「ペアノの公理」がよく知られる。足し算による定義だ。一方、かけ算でも定義できる。自然数はすべて素数の積に分解できるので、それをすべて作って小さい順に並べる方法だ(ただし1は素数の0乗)。数をそんなふうに見ると、足し算とかけ算は独立していて分離できるかもしれないと思えてくる。, ではABC予想はどうか。予想の主張である「c ≻d^(1+ε)」。これのIUT理論での「deg Θ≦deg q+c」への帰結を目指す。, 評者のような文系出身者に「deg 」は無縁だったが、次数(デグ)を表す記号だ。ここではdeg Θ(デグ・テータ)が現実舞台での計算結果、deg qはかけ算を伸縮させた舞台での計算結果となる。右辺に加えられているcは、ABC予想のcとは別物で、ひずみの定量的評価で求められた小さな値だ。IUT理論によるABC予想は、現実舞台での累乗数が、かけ算伸縮舞台での累乗数よりも小さいことに帰結させたい訳だ。, いよいよ本論。加藤さんはここで、これまで「かけ算を伸び縮みさせた舞台」と呼んでいたものを示す。その舞台とは、現実舞台の「q」を伸縮舞台での「qのn乗」に対応させたものだ。これはLogを用いると、「N Log q≒Log q」(両項を結ぶのは近似であることに注意)と表される。Log(けた数)と先に出てきたdegの違いは、ここでの理解の上では考えなくてよいそうだ。同じようなものと考えていい。, なんだか、値が確定しないまま議論が進められていくような、キツネにつままれたような印象を持つ流れだ。それも、本書に収められている望月教授本人による寄稿を読めばある程度解消する。, 「数学は曖昧さを許さない体系だと思っている人が多いかもしれないが、実はそうではない」として、曖昧さは以前から取り入れられている、と言う。, つまりは、ひずみを抱えていても、そのひずみ定量的に評価できれば合理的である、ということだ。「未来からの論文」とも称されるIUT理論のキモは定量的評価だったのだ。, 本書は、ぼんやりと読むと1日、2日で読了する。分かりやすく書かれた本だという印象だ。しかし、読み返すうちに、緻密に張られた伏線に気づくだろう。例えば、「遠アーベル幾何学」や「楕円曲線」など数学専攻者でも難解な分野の知識も、IUT理論の理解には必要なのだと思い知らされることになる。ただそれらを体系的に組み上げてIUT理論に臨むことは困難でも、それぞれをトピックとして立ち寄るだけで、十分に面白い。, 複数の舞台に情報=対称性を伝達するのに使う群論についての加藤さんの解説は、特に分かりやすかった。群論は「行為の算術」であるという群論の哲学と、その技術論を分けて紹介している。群論では形は伝えられても大きさは伝えられないという特質も透けて見える。群論を学びたい人にもおすすめだ。, 文系だが、難解な数学にも挑戦してみたいと思っている読者は少なくないだろう。そんな一人として、多少なりとも参考になればと思って紹介した次第だ。, 加藤さんの著書には『ガロア―天才数学者の生涯』(中公新書)、『数学の想像力: 正しさの深層に何があるのか』(筑摩選書)、『物語 数学の歴史―正しさへの挑戦』(中公新書)などがある。また、BOOKウォッチでは数学関連で『完全版 天才ガロアの発想力』(技術評論社)、『クロード・シャノン 情報時代を発明した男』(筑摩書房)、『虚数はなぜ人を惑わせるのか』(朝日新書)などを紹介済み。, 2020年4月3日追記 数学の超難問といわれる「ABC予想」を京都大学数理解析研究所の望月新一教授(51)が証明したとされる論文が、ついに国際的な数学誌に掲載されることになった。京都大が2020年4月3日に発表した。. 未解決の部分だけ別途証明を付ける. ※この問題では「右辺からすり寄って」「左辺を比較する」やりかたでもできるが少し複雑になる. (B)の両辺に 2 を加えると ミレニアム懸賞問題(ミレニアムけんしょうもんだい、英: millennium prize problems)とは、アメリカのクレイ数学研究所によって、2000年に発表された100万ドルの懸賞金がかけられている7つの問題のことである。そのうち1つは解決済み、6つは2020年10月末の時点で未解決である。ミレニアム賞問題、ミレニアム問題とも呼ばれる。, 賞金を得るためには、査読つきの専門雑誌に掲載された後、二年間の経過期間を経て解決が学界に受け入れられたことが確認されなくてはならない[1]。なお、P≠NPとナビエ-ストークス方程式については、肯定的、否定的のいずれの解決に対しても賞金が与えられるが、他の問題については、否定的な解決は、それが問題の実効的な解決であるとみなされる場合に限り賞金が与えられる。否定的な解決であっても問題が修正を加えられた上で生き残る場合は、賞金は与えられない[2][3]。, 7つの予想のうち、ポアンカレ予想については2002年から2003年にかけてグリゴリー・ペレルマンによりこれを証明したとする3つのプレプリント(専門誌未査読の論文)が発表された。この証明は複数の数学者による4年の検証を経て正しいものと認められ、2010年3月18日にクレイ数学研究所はペレルマンの受賞を発表した[4]。ただし、ペレルマンはこの受賞を拒否しており、彼に与えられる賞金100万ドルは数学界へ貢献するかたちで使われることになると発表している。, 任意のコンパクトな単純ゲージ群 G に対して、非自明な量子ヤン・ミルズ理論が 'R4 上に存在し、質量ギャップ Δ > 0 を持つことを証明せよ。, リーマンゼータ関数 ζ(s) の非自明な零点 s は全て、実部が 1/2 の直線上に存在する。, 3次元空間と(1次元の)時間の中で、初期速度を与えると、ナビエ–ストークス方程式の解となる速度ベクトル場と圧力のスカラー場が存在して、双方とも滑らかで大域的に定義されるか。, 複素解析多様体のあるホモロジー類は、代数的なド・ラームコホモロジー類であろう、つまり、部分多様体のホモロジー類のポアンカレ双対の和として表されるようなド・ラームコホモロジー類であろう。, 楕円曲線E上の有理点と無限遠点Oのなす有限生成アーベル群の階数(ランク)が、EのL関数 L(E, s) のs=1における零点の位数と一致する。, http://www.claymath.org/sites/default/files/millenniumprizefull.pdf, http://www.claymath.org/millennium-problems/rules-millennium-prizes, “The Millennium Grand Challenge in Mathematics”, http://www.ams.org/notices/200606/fea-jaffe.pdf, http://www2.maths.ox.ac.uk/cmi/library/monographs/MPP.pdf, https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=ミレニアム懸賞問題&oldid=80405599.